
1. 特別管理産業廃棄物の定義
特別管理産業廃棄物とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づき、産業廃棄物のうち、特に爆発性、毒性、感染性、その他の有害性を有し、人の健康や生活環境に重大な被害を及ぼす恐れがあるものを指します。
2. 特別管理産業廃棄物の種類
特別管理産業廃棄物は、その性質や含有する有害物質に応じて以下のように分類されます。
2.1 廃油
- 引火点が70℃未満の廃油
- 具体例:ガソリン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの揮発性有機溶剤を含む廃油。
- 危険性:引火・爆発の恐れがある。
2.2 廃酸・廃アルカリ
- 強酸性または強アルカリ性の廃液
- 廃酸:pHが2以下のもの(硫酸、塩酸、硝酸など)。
- 廃アルカリ:pHが12.5以上のもの(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)。
- 危険性:腐食性が高く、人体や設備への損傷を引き起こす。
2.3 感染性産業廃棄物
- 医療機関や研究施設から排出される感染性のある廃棄物
- 具体例:血液、体液、培養検体、使用済みの注射器、メス、ガーゼなど。
- 危険性:病原体による感染リスクがある。
2.4 特定有害産業廃棄物
特定有害産業廃棄物は、特定の有害物質を含有する廃棄物で、以下のようなものが該当します。
2.4.1 PCB(ポリ塩化ビフェニル)関係廃棄物
- 廃PCB等
- 具体例:PCBを含む変圧器、コンデンサー、安定器、PCB油など。
- 危険性:強い毒性と環境残留性があり、人体への健康被害を引き起こす。
- PCB汚染物
- 具体例:PCBが付着・染み込んだ機器類、布類、土壌など。
- PCB濃度:0.5mg/kg超のもの。
- PCB処理物
- 具体例:PCBを処理した際に発生する廃液、スラッジなど。
2.4.2 石綿(アスベスト)含有廃棄物
- 廃石綿等
- 具体例:吹付けアスベスト、アスベスト含有断熱材、保温材、耐火被覆材、アスベスト含有成形板(スレート、ボードなど)。
- 危険性:アスベスト繊維の吸入による健康被害(石綿肺、中皮腫など)。
2.4.3 ダイオキシン類含有廃棄物
- ばいじん、焼却灰等
- 具体例:焼却施設から発生するばいじん、飛灰、炉内残渣。
- ダイオキシン類濃度:基準値を超えるもの。
- 危険性:発がん性や生殖毒性など。
2.4.4 水銀含有廃棄物
- 廃水銀等
- 具体例:水銀を含む蛍光灯、水銀灯、温度計、血圧計、電池、歯科用アマルガム。
- 危険性:神経毒性があり、環境中でメチル水銀に変化すると生物濃縮する。
2.4.5 重金属等を含む廃棄物
- 特定有害物質を含有する汚泥、ばいじん、鉱さい等
- 重金属類:カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、セレン、フッ素、ほう素など。
- 危険性:有毒性が高く、環境中での拡散による生態系への影響。
2.4.6 有機塩素化合物等を含む廃棄物
- トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤を含む廃棄物
- 危険性:発がん性や生殖毒性があり、地下水汚染の原因となる。
2.5 その他の特別管理産業廃棄物
- 感染性廃棄物以外の汚泥、廃酸、廃アルカリ、廃油で特定の有害物質を含むもの
- 具体例:ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素などを含む廃液。
3. 関連法令と規制
3.1 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
- 第2条:廃棄物の定義と分類。
- 第12条の2:特別管理産業廃棄物管理責任者の選任義務。
- 第13条:特別管理産業廃棄物の収集運搬・処分業の許可要件。
- 第14条:特別管理産業廃棄物の保管基準、処理基準。
3.2 その他関連法令
- 労働安全衛生法
- 石綿障害予防規則:アスベスト取扱い作業の規制。
- 有機溶剤中毒予防規則:有機溶剤の取り扱い基準。
- 大気汚染防止法
- 特定粉じん排出等作業の規制:アスベストの飛散防止措置。
- PCB特別措置法(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法)
- 水銀汚染防止法(特定水銀使用製品の製造等の規制に関する法律)
4. 解体業における特別管理産業廃棄物の取り扱い
4.1 事前調査
- 有害物質の有無を確認
- 建築物石綿含有建材調査者によるアスベスト調査。
- PCB、重金属、水銀などの含有調査を専門機関に依頼。
- 調査結果の記録と保存
- 調査報告書を作成し、法定期間保存。
4.2 作業計画の策定
- 適切な処理方法の選定
- 廃棄物の種類・性状に応じた除去・処理方法を計画。
- 安全衛生管理計画の作成
- 作業員の健康と安全を確保するための具体的対策を明記。
4.3 法令に基づく手続き
- 届出・許可の取得
- 石綿作業計画届:労働基準監督署へ作業開始14日前までに提出。
- 特定粉じん排出作業届:大気汚染防止法に基づき都道府県知事へ届出。
- PCB廃棄物の届出:環境省へ適切に届出。
- 特別管理産業廃棄物管理責任者の選任
- 法定講習を修了した者を選任し、所管行政庁へ届出。
4.4 解体・除去作業
アスベスト含有廃棄物の取り扱い
- 作業区域の設定
- 密閉措置:作業区域をビニールシートで密閉。
- 負圧管理:負圧集じん機を設置し、作業区域内を負圧に維持。
- 作業員の保護
- 保護具の着用:国家検定合格品の防じんマスク(第3種)、防護服、手袋、ゴーグル。
- 湿潤化処理
- アスベストを十分に湿らせ、飛散を防止。
- 除去作業
- 手作業で慎重に除去し、破損や飛散を最小限に。
- 清掃・検査
- 作業終了後、区域内を徹底的に清掃。
- アスベスト繊維の残存を測定し、基準値以下であることを確認。
PCB含有廃棄物の取り扱い
- 安全な取り外し
- 専門技術者が漏洩防止措置を行いながら機器を撤去。
- 保管・管理
- 密閉容器に収納し、「PCB廃棄物」であることを明示。
- 保管場所は遮蔽・施錠し、定期的に点検。
ダイオキシン類含有廃棄物の取り扱い
- 防護対策
- 作業員は高性能の防毒マスク、防護服を着用。
- 飛散防止措置
- 作業区域の密閉、湿潤化、負圧管理。
- 廃棄物の収集
- ばいじんや焼却灰を密閉容器に収納。
水銀含有廃棄物の取り扱い
- 破損防止
- 蛍光灯や計測機器を慎重に取り扱い、破損を防ぐ。
- 保管・表示
- 専用の密閉容器に収納し、「水銀含有廃棄物」であることを明示。
4.5 運搬・処分
- 許可業者への委託
- 特別管理産業廃棄物収集運搬業・処分業の許可を持つ業者に委託。
- マニフェストの管理
- 産業廃棄物管理票(マニフェスト)を交付・受領し、処理完了まで追跡。
- マニフェストは5年間保存。
4.6 保管基準の遵守
- 保管場所の確保
- 屋内または屋根付きの施設で保管。
- 床面は不浸透性材質とし、液体漏洩を防止。
- 表示の徹底
- 「特別管理産業廃棄物の保管場所」と明示。
- 危険性や有害性をわかりやすく表示。
5. 安全管理と作業員の健康保護
5.1 作業員教育
- 特別教育の実施
- アスベスト取扱い作業従事者教育。
- 有機溶剤作業主任者教育。
- 特別管理産業廃棄物管理責任者講習。
5.2 健康診断の実施
- 定期健康診断
- 法令に基づき、作業開始前および定期的に実施。
- 石綿ばく露作業従事者には胸部エックス線検査などを含む。
5.3 安全衛生措置
- 保護具の支給と使用
- 適切な保護具を提供し、正しい使用方法を指導。
- リスクアセスメント
- 作業手順の見直しや危険要因の評価。
- 緊急時対応策
- 漏洩、飛散、事故発生時の対応マニュアルの作成。
6. 注意すべきポイント
6.1 法令遵守の徹底
- 最新情報の確認
- 法令や規制は改正される可能性があるため、常に最新情報を確認。
- 地域特有の規制
- 自治体ごとに追加の規制や手続きがある場合がある。
6.2 記録の保存
- マニフェストの保存期間
- 交付・受領したマニフェストは5年間保存。
- 教育・健康診断記録
- 作業員の教育実施記録や健康診断結果を保存。
6.3 周辺環境への配慮
- 飛散・漏洩防止
- 周辺環境や住民への影響を最小限に抑える対策を実施。
- 苦情対応
- 近隣住民からの苦情や問い合わせに迅速かつ適切に対応。
7. 罰則規定とリスク
- 法令違反時の罰則
- 違法な処理や管理不備に対しては、懲役刑や罰金刑などの厳しい罰則が科される。
- 企業名の公表や行政処分(事業停止、許可取消)もあり得る。
- 社会的信用の低下
- 違反が公表されると企業の信用が失墜し、取引停止や顧客離れにつながる可能性。
- 環境汚染・健康被害の責任
- 環境汚染や健康被害が発生した場合、多額の損害賠償や補償責任を負う。
8. 関連資格と許可
- 特別管理産業廃棄物管理責任者
- 法定講習を修了した者を選任し、適切な管理を行う。
- 産業廃棄物収集運搬業・処分業許可
- 特別管理産業廃棄物を取り扱う場合、該当する許可が必要。
- 石綿作業主任者
- 石綿の除去作業を行う際に選任が義務付けられる。
9. 具体的な処理フローの例
9.1 アスベスト含有建材の解体・処理フロー
- 事前調査
- 建築物石綿含有建材調査者による調査。
- 届出・計画書の提出
- 労働基準監督署、大気汚染防止法に基づく届出。
- 作業区域の設定
- 密閉、負圧管理、警告表示。
- 除去作業
- 湿潤化、防護具の着用、手作業での除去。
- 廃棄物の梱包・保管
- 二重密閉、表示、保管基準の遵守。
- 運搬・処分
- 許可業者による収集運搬、安定型または管理型処分場での埋立処分。
- 記録の保存
- マニフェスト、作業記録、測定結果の保存。
まとめ
特別管理産業廃棄物は、その有害性から厳格な取り扱いが求められます。解体業を営む際には、事前調査から処理・処分までの全てのプロセスにおいて、法令遵守と安全管理を徹底することが不可欠です。専門的な知識と資格を持つ人材の配置、正確な手続きの実施、作業員の健康と安全の確保、そして周辺環境への配慮が重要です。