特殊廃棄物の適切な処理は環境保護や法令遵守の観点から極めて重要です。特殊廃棄物とは、一般の産業廃棄物とは異なり、有害性が高く、特別な取り扱いが必要な廃棄物を指します。
1. アスベスト(石綿)
概要
アスベストは耐熱性・耐久性に優れた鉱物繊維で、建材として広く使用されてきました。しかし、吸入による健康被害(石綿肺、中皮腫など)が明らかになり、現在では使用が禁止されています。
解体・処理手順
- 事前調査の実施
- 石綿含有建材調査者による専門的な調査を行い、アスベストの有無、種類、使用箇所を特定します。
- 調査結果を記録し、保存します。
- 作業計画の策定と届出
- 石綿作業計画書を作成し、作業開始の14日前までに労働基準監督署に提出します。
- 大気汚染防止法に基づき、都道府県知事への届出も必要です。
- 作業区域の設定と準備
- 作業区域を明確に区分し、立ち入り禁止措置を実施します。
- 作業区域を密閉し、負圧管理を行います。
- 作業者の保護
- 防じんマスク(国家検定合格品)、防護服、手袋などを着用します。
- 作業前・作業後に作業員の健康管理を徹底します。
- 湿潤化処理
- アスベストの飛散を防ぐため、湿潤剤を使用し、十分に湿らせます。
- 除去作業
- アスベスト含有建材を慎重に取り外し、破損や粉じんの発生を最小限に抑えます。
- 廃棄物の梱包・表示
- 二重の密閉容器(ポリ袋など)に収納し、「石綿含有廃棄物」であることを明示します。
- 運搬・処分
- 特別管理産業廃棄物収集運搬業者により、安全に運搬します。
- 安定型処分場または管理型処分場で適切に処理します。
2. PCB(ポリ塩化ビフェニル)
概要
PCBは絶縁油や熱媒油として使用されていた有害物質で、強い毒性と環境残留性があります。現在では製造・使用が禁止されていますが、古い機器には残存している場合があります。
解体・処理手順
- 対象機器の確認
- 変圧器、コンデンサー、安定器などの電気機器にPCBが含有されていないか調査します。
- 届出・登録
- PCB特別措置法に基づき、保管や処分の届出を所管の環境局に行います。
- 安全な取り外し
- 専門技術者が漏洩防止措置を行いながら機器を取り外します。
- 保管・管理
- 密閉容器に収納し、適切な表示を行います。
- 一時保管場所は施錠し、漏洩や盗難を防止します。
- 運搬・処分
- 特別管理産業廃棄物収集運搬業者が適切な処理施設へ運搬します。
- 高温焼却などの方法で無害化処理を行います。
3. フロンガス
概要
フロンガスは冷媒や発泡剤として使用されてきましたが、オゾン層破壊や地球温暖化の原因となります。
解体・処理手順
- 対象機器の確認
- エアコン、冷蔵庫、冷凍機などのフロン含有機器を特定します。
- フロン回収業者への依頼
- 第一種フロン類回収業者にフロンの回収を依頼します。
- フロンの回収
- 専用の回収機材でフロンを安全に回収します。
- 機器の解体
- フロン回収後、機器を分解・解体します。
- 運搬・処分
- 回収されたフロンは、再生処理または破壊処理を行います。
4. 水銀含有廃棄物
概要
水銀は蛍光灯、温度計、スイッチなどに使用され、有害性が高いため適切な処理が必要です。
解体・処理手順
- 対象物の分別
- 蛍光灯、水銀灯、電池、計測機器などを他の廃棄物と分別します。
- 破損防止
- 取り扱い時に破損しないよう慎重に作業します。
- 梱包・表示
- 専用容器に収納し、「水銀含有廃棄物」であることを明示します。
- 運搬・処分
- 産業廃棄物収集運搬業者が適切な処理施設へ運搬します。
- 蒸留法や固定化処理で無害化し、再資源化します。
5. 鉛含有廃棄物
概要
鉛は塗料、配管、バッテリーなどに含まれ、人体や環境に有害です。
解体・処理手順
- 鉛含有物の特定
- 古い塗料や配管材、蓄電池などに鉛が含まれていないか確認します。
- 防護対策
- 作業者は防護マスクや手袋を着用します。
- 除去作業
- 湿潤化を行いながら、塗膜の剥離や配管の撤去を行います。
- 廃棄物の管理
- 鉛含有廃棄物として分別し、適切に保管します。
- 運搬・処分
- 産業廃棄物収集運搬業者が適切な処理施設で溶融処理や安定化処理を行います。
6. ダイオキシン類
概要
ダイオキシン類は、焼却施設や一部の化学工場で発生する有害物質です。
解体・処理手順
- 対象施設の確認
- 焼却炉、ボイラー、化学プラント設備の解体時に注意します。
- 事前調査
- ダイオキシン類の残留状況を専門機関で分析します。
- 防護対策
- 作業者は高性能の防毒マスクや防護服を着用します。
- 除去作業
- 粉じんの発生を抑えるため、湿潤化や密閉作業を行います。
- 廃棄物の管理
- 特別管理産業廃棄物として、密閉容器に収納します。
- 運搬・処分
- 許可業者が高温焼却や分解処理で無害化します。
7. 土壌汚染物質
概要
過去の工場やガソリンスタンド跡地では、重金属や有機溶剤による土壌汚染が存在する場合があります。
解体・処理手順
- 土壌汚染調査
- 専門機関による土壌汚染対策法に基づく調査を実施します。
- 汚染範囲の特定
- 汚染物質の種類と濃度、汚染範囲を明確にします。
- 掘削・除去
- 汚染土壌を掘削し、他の土壌と分別します。
- 仮置き場の管理
- 防水シートで覆い、雨水による流出を防止します。
- 運搬・処分
- 許可業者が適切な処理施設で洗浄、固化、溶融などの処理を行います。
8. 有機溶剤・油類
概要
有機溶剤や油類は、塗料、接着剤、タンクなどに含まれ、環境汚染の原因となります。
解体・処理手順
- 残留物の確認
- タンクや配管内の有機溶剤や油の残留を確認します。
- 抜き取り・洗浄
- 専用の機器で残留物を抜き取り、内部を洗浄します。
- 防火・防爆対策
- 作業エリアの火気厳禁、静電気防止策を実施します。
- 廃液の管理
- 回収した廃液を専用容器に保管し、適切に表示します。
- 運搬・処分
- 許可業者が焼却処理や再生処理を行います。
9. 感染性廃棄物
概要
病院や研究施設から発生する血液、培養液、使用済みの注射器などは感染性廃棄物となります。
解体・処理手順
- 対象物の分別
- 感染性の可能性がある廃棄物を他と分別します。
- 防護対策
- 作業者は手袋、マスク、防護服を着用し、針刺し事故に注意します。
- 梱包・表示
- 専用の赤色容器に収納し、「感染性廃棄物」であることを明示します。
- 運搬・処分
- 特別管理産業廃棄物として、許可業者が高温焼却を行います。
10. 放射性物質
概要
放射性物質は、特定の医療機器や研究施設で使用されます。
解体・処理手順
- 専門機関への連絡
- 放射性物質が含まれる場合、原子力規制委員会や専門機関に連絡します。
- 防護対策
- 作業者は放射線防護具を着用し、被ばく線量を管理します。
- 除去・封じ込め
- 放射性物質を慎重に取り扱い、遮蔽容器に収納します。
- 運搬・処分
- 専門の許可業者が適切な処理施設で処分します。
まとめ
特殊廃棄物の適正な処理は、環境保護と人々の健康を守るために不可欠です。解体業を営む際には、事前の調査と計画、法令に基づく手続き、専門的な処理が求められます。各種の特殊廃棄物ごとに適切な対策を講じ、専門業者と連携して安全かつ確実な解体・処理を行ってください。
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